若者の一票は無力か? シルバー民主主義の現実

考え・意見

先日、都知事選があり、都民ではありませんが僕もかなり注目していて情報を追っていました。特に、ネット上で旋風を巻き起こしていた石丸氏がどれだけ伸びるのか、もしかしたら現職の小池氏を破れるのではと期待していました。

個人的には、能力や実績にかかわらず長期政権は腐敗するので交代した方が良いと思っていますが、残念ながら今回は現職が再選することになりました。

その後、選挙を振り返るネット番組でとあり経済学者がこんな話をしており気になりました。

「データを見てみたんですけど。仮に10~30代の投票率が100%になっても、結果はひっくり返りそうにないんですよ。それぞれの%で見ると、強そうに見えるんですけど、そもそも10~30代の母数が少なすぎるので」「そこがいくら増えても勝てないと。どんなシナリオを考えても、小池さんをひっくり返すことができないのが、絶望感でしたね」

この発言から僕は、候補者は若い人をターゲットにアピールしても当選できない、若い人の投票行動は意味が無いというような印象を受けました。

今の日本は、いわゆる、シルバー民主主義になってしまっているのでしょうか。

シルバー‐みんしゅしゅぎ【シルバー民主主義】

少子高齢化の進行に伴って、有権者人口に占める高齢者(シルバー世代)の割合が増加し、高齢者層の政治的影響力が高まること。若年層や中年層の意見が政治に反映されにくく、高齢者向けの施策が優先されがちになるといった弊害が指摘されている。シルバーデモクラシー。老年民主主義。

「シルバー民主主義」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2024年8月1日 (木) 11:18、URL: https://kotobank.jp/word/シルバー民主主義-191559
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東京は意外と若い人が多い!?

そもそも、この番組ではお酒が入っていたこともあり、どこまで本気で言っていたのかわかりません。話の前提内容も曖昧で推測しないといけない部分も多くあります。

僕は、若い人の投票行動がどこまで政治に影響力があるのか、というのが話の本質だと思いました。

東京都の統計 https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/juukiy/2024/jy24000001.htm

これは、東京都の日本人及び外国人の年齢(5歳階級)別人口 令和6年1月1日現在です。東京都総務局統計部が公式サイトで公表しているデータです。

ちょっと見ずらいので、日本人のデータを10歳ごとにして小数点1位(四捨五入)までにして表にしてみました。

年代人口割合
18.19歳1.6
20代12.1
30代13.0
40代15.0
50代15.6
60代10.4
70代10.3
80代以上8.4
東京都年代別人口割合1

選挙権は18歳からなのですが具体的な数値はわからないので、15~19歳の人口を単純に割って算出しています。

どこからどこまでが若者かというのは難しいところなのですが、この表のちょうど真ん中になる40代以下と50代以上で分けてみます。

年代人口割合
40代以下41.7
50代以上44.7
東京都年代別人口割合2

なんと驚いたことに、東京都は40代以下と50代以上の人口がほとんど同じのようです!

つまり、若い人と高齢者の人口が拮抗している東京都はシルバー民主主義ではまったくなく、若者の投票には多大な影響力があるといえます。

若者世代は投票率を上げれば、それだけ政治への発言力が増すことになります。

冒頭の経済学者の発言では、30代以下が投票に行っても結果が変わらないとされていましたが、そもそも全年齢の中で真ん中になる40代をなぜ外したのか疑問があります。

40代は働き盛りですし、家庭のある人はこどももまだ自立していないでしょう。40代を若者から除外することに違和感があります。

むしろ、50代でもまだ高齢者と言うには早すぎるとすら思います。

学者ですからデータはきちんと見ているはずですし、シルバー民主主義という結論に繋げるのためにあえてデータを限定したのかと邪推してしまいます。

20240707都知事選年代別投票者数・得票率

とはいえ、実際の選挙では若年層の投票率が低いのが現実です。

面白いことに、80歳以上になると投票率は下がります。高齢になれば体が動かずに投票にいけなくなりますし、そもそも政治への関心は薄れていくのかもしれません。

若い人と高齢者の人口は拮抗しているわけですから、投票率さえ上がれば若い人の影響力が増す余地があるとも言えます。

実際に、東京では子育て支援など若い人向けの政策は地方よりも充実していると思います。そして、それが評価されたのか現職は若い世代からもそれなりに支持を受けていました。

ただし、これは東京都に限った話です。日本全国で見れば、やはり高齢者の人口割合は多く、投票率の差も相まってシルバー民主主義の色は濃くなるかもしれません。

若い人が都市部に移るのは、自己防衛の意識が働いているからかもしれません。自分と似た環境の人が多い地域に集まり、発言力を増すことは生活改善に繋がります。子育て支援の少ない地方よりも、東京で生活したいと思うのは自然です。

つまり、シルバー民主主義を進めるほど地方から若い人が離れてしまい、高齢者は自分の首を絞める結果になっています。そして、それを補うために政治力を行使してしまえば、対立が深まっていきます。

年代別より所得データが重要ではないか

ここまで調べてふと疑問に思ったのですが、そもそも年代別の投票データにどれほど意味があるのでしょうか。

20代と言っても起業してバリバリ稼いでいる人もいれば、30代後半で結婚しこどもが生まれたのは40歳という方もいます。音楽や芸能など夢を追い続けて、定職に就かない選択をする人もいるでしょう。

特に多様な人が住む東京都では年代という単純なくくりでデータを取ることに大きな意味は無いと思います。

年齢で変わってくる制度は年金くらいなものです。

それよりも、税金や補助金などの政策で区分けされるのは所得でしょう。

投票データを取るべきなのは年代別ではなく、所得別だと思います。

とはいえ、投票者に所得を聞いて回るのは難しいのか、ネット上をいくら調べてみても所得別の投票行動統計をとったデータは見つかりませんでした。

49回衆議院選挙 就業形態別投票参加率

公益財団法人明るい選挙推進協会-調査研究事業(意識調査) https://www.akaruisenkyo.or.jp/060project/066search/

こちらのサイトで、年代別以外の区分けで調査したデータが公開されていました。都知事選のデータはなかったので、執筆時点で最新の2021年第49回衆議院選挙のデータです。

データの解説も評価も記載されていたのでわかりやすいですね。

行動力のある経営者や役員の投票率が高いのは頷けます。家計に敏感な主婦・主夫も政治に関心が強いのかもしれません。

無職の方の大半は高齢者の様です。年金や補助金が生活に直結するので投票行動に繋がりやすいのでしょう。

一方で、正社員や派遣社員は驚いたことに学生と同じくらい投票率が低いようです。投票の多い層への政策を増やし、投票率の低い労働者への税負担を増やすということに繋がっているのかもしれません。

選挙がある度に、バラマキ政策がされますがこれも支持層へのアピールでしょう。

例えば、パートと主夫、無職を合わせれば度数が804になり、正社員と派遣を合わせた407の約2倍の得票を期待できます。このため、選挙になると低収入者に向けたバラマキ政策が行われると推測できます。

日本の政権与党をずっと担ってきた自民党は、優遇政策の見返りとして大企業から献金を募り、低所得者向けのバラマキ政策によって票稼ぎをしているというのが実態でしょう。

49回衆議院選挙 職種別投票参加率

職種別の投票参加率を見てみると、面白いことに農林水産に係る仕事をしている人の投票率が圧倒的に高いことがわかりました。

漁業組合とか農協の発言力が高いのはこの投票率からきていそうです。解説にもあるように度数は大きくありませんが、他の業種が全国に分散している一方で、農林水産業は特定地域に根付いているのでそこでは影響力が強いのかもしれません。

大企業+低所得民主主義

これまで分析した結論として、日本は大企業優遇+低所得民主主義だと思いました。

シルバー民主主義なら、自分が高齢になれば恩恵が回ってきますが、現実はもっと悪いです。

高齢になっても生活を維持するために働き続けなければなりません。一生懸命はたらいて納めてきた年金は、生活保護の支給額よりも低いという矛盾に陥っています。

それならばいっそのことすべてを手放して生活保護になってしまった方が良いかもしれません。車を持てないなどの制限は一部ありますが、色々な税金が免除されたり医療費が無料になります。

今や無料で楽しめる娯楽が溢れており、ネットさえあれば暇しません。ゲームは基本無料が主流になっており、違法サイトでは漫画やアニメが無料で見れます。図書館に行けば一生かかっても読み切れない本が収められています。

僕自身の生活を振り返ってみると、節約のために自分の娯楽にお金をかけておらず、おそらく生活保護でもほとんど同じような暮らしができそうです。家族がいるのですべてを投げ出すというのはできませんが、もしも今も独身ならば働くことに対して大きな疑問を抱いてしまうと思います。

実際のところ、僕と同じように家族のために苦しくとも我慢している人が多いのではないでしょうか。そして、それを見透かして現役世代への負担を増やし続けているのが日本の政治だと思います。

では、どうしたら現状を変えることができるのでしょうか?

僕は、現状のシステムの中から構造改革するのは不可能だと思います。

経済的弱者を切り捨てるということは倫理的にできませんし、政治家としても支持者を失うことは失職に繋がるのでできません。

考えられる可能性としては、戦争などの外的要因です。コロナ禍のような未曽有の天災も社会変革の一因にはなりえます。しかし、これらは責任転嫁しているだけで、弱者を見捨てることに変わりありません。

僕は人生のほとんどは運で決まると思っています。能力の大部分は遺伝で決まりますし、環境によって人生は大きく左右されます。弱者の自己責任論は能力差別でしかなく、それも本人の力の及ばない運の要素が大きいものです。

所得だけではなく、重い税負担を強いられている労働者は政治的な弱者とも言えるでしょう。

多数や強い者の利益のために、少数や弱者を犠牲にするのは許されません。

もう一つの、そして唯一の可能性が技術革新による社会構造の変化だと思います。

西欧の民主革命は、近代産業の発展による市民の富裕化、そして貴族などの支配者層とのパワーバランスが崩れたことが原因です。つまり、人権が大切だといったような単純な正義感が民主革命を起こしたわけではなく、産業革命によってはじまった資本主義を効率化させるために民主主義政治が必要となり、革命に繋がったというのが現実です。

現代の社会構造が大きく変わるとしたら、産業革命のような大きな技術革新がきっかけになると思います。

例えば最近話題のAI革命がもし加速度的に発展すると、医者や弁護士などのホワイトカラーの職業を奪うと言われています。すると賢い人たちが、ブルーカラーの職業に移ってきますから、席を取られた人たちは失業してしまいます。

AIによって自動運転が実現すれば、経済の根幹を担う物流業界が一変し大量失業に繋がるかもしれません。また、芸術分野でもAIは活躍しており、業種を問わず人間の仕事を代替していくと考えられます。

完全にAIが人間の代わりになるとは思いません。

でも、世界的な金融危機を引き起こしたリーマンショックの時でさえ、アメリカの失業率は5.5%でした。統計から漏れた隠れ失業者を含めても10%程度と推測されています。

現在のアメリカの失業率は4%前後ですから、これが1.5%上がっただけで世界が大混乱するのです。もし、AI革命によって多くの人間の仕事が奪われたら、世界的な経済の混乱を引き起こしてもおかしくありません。

AI革命によって恒久的に仕事がなくなってしまえば、多くの失業者を支えるためにベーシックインカムの導入が本格的に議論されると思います。技術革新によって生産性が上がれば、ベーシックインカムに頼った生活でも今以上に豊かに暮らせるかもしれません。

しかし、これは格差社会を広げ現代の階級制度にも繋がる可能性があるので、社会の構造改革で必ずしも明るい未来がひらけるとは限りません。

ただ僕は未来には楽観的です。他人と比べると貧しい暮らしだとしても、それ以上に技術革新の恩恵が大きければ良いからです。ネットの無い時代のお金持ちよりも、今の庶民の方がはるかに娯楽は多いです。

僕は、若い人の投票率を上げることには大きな意味があると思うので選挙があれば投票には行きますが、生活を劇的に改善してくれるとは思っていません。

それよりも、今後の技術発展がより良い未来を切り開いてくれることを期待しています。

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