はじめて東京に来た時に、坂道が多いことに驚きました。関東平野というくらいなので真っ平らなのかと思っていましたが、丘陵というか台地が点在していて起伏に富んでいます。人口が多いからか、丘の上のちょっと不便そうなところにも住宅が密集しています。
そんな坂道をものすごいスピードで、こどもを前後に抱えたお母さんが下っていくのを見かけます。車やトラックも一緒に走っています。重い電動自転車に乗っている人も多く、万が一、接触したりコントロールを失ったら大事故になります。
もしかしたら、命を失ったり一生治らない障がいを負ってしまうかもしれません。
そうなってしまえば一生後悔するでしょう。
事故や犯罪にあった場合、加害者は罪を償うことになります。それはほとんどの場合、お金を支払ったり刑務所に入るといった方法です。
でも、被害者はお金を手にしたとしても、元の日常が戻ってくるわけではありません。賠償金が大きく、加害者の支払い能力がない場合は泣き寝入りになることもあります。
法律が守ってくれるとか、警察がいるから悪いことをする人はいないだろう、という考えは誤りです。被害を受けてしまえば、取り返しの付かないことになる可能性もあるのです。
そうならないためには、トラブルに巻き込まれないように、自己防衛の意識を持つことが大切だと思います。
僕が受けた暴行被害
振り返ってみると、僕はこれまでの人生で、何度か大きなトラブルに巻き込まれています。後遺症になるほどの被害が無かったのは幸運でした。
人生ではじめて殴られたのは兄弟喧嘩の時でした。
中学生の時に、僕と長兄が取っ組み合いになりました。その原因が何だったのかは思い出せません。
そこへ、次兄が仲裁に入ってきました。
三つ巴の押し合いになろうかと思ったその瞬間、眼の前が真っ白になって僕の頭がはじけました。
次兄が、僕から殴られると思ったので、先制攻撃をしたと主張していました。仲裁に来たはずの次兄が最初に手を出したのだから、滅茶苦茶です。
殴られた衝撃で、僕の奥歯が欠けてしまいました。痛みが治らないので歯医者に行くと、そのままにしておくと虫歯になるので埋めないといけないと言われ銀歯を付けることになりました。
兄弟喧嘩ですから、犯人が目の前に居ても泣き寝入りです。大人同士なら賠償金をいくらか取れるかもしれませんが、中学生だったのでただ痛みと理不尽に耐えるしかありません。
次兄はカッとなると手が出る性格でした。怒りを爆発させて壁を殴りつけて穴を開けたり、母親に手をあげたこともあります。僕自はそんな行動を一度もとったことがありませんが、血のつながりのある兄弟でも性格がまったく異なることがあります。
ましてや、赤の他人であればどんな人間なのかを判断するのは難しいでしょう。
20歳ごろに暴行被害を受けたことがあります。
学校から帰ってくる途中のことでした。僕が自転車に乗っていると、後ろから車が近づいてきて、並走すると接触するほどの距離まで寄せてきました。
驚いた僕は体勢を崩して転びそうになります。その時に、僕の足が車に当たったのを覚えています。
危険を感じた僕はブレーキをかけ、反転して逃げようとしました。しかし、十分に加速する前に運転席から男が出てきて、捕まってしまいました。
年は30歳前後、身長は僕と変わらないくらいでしたが体はがっしりとしており、逃げ出すことができません。人通りの少ない住宅街だったので、周りには誰もおらず助けを求めることもできません。
男が「ぶっ殺すぞ!」と叫んでいたのを覚えています。
まだ若かったこともあり、そんなに深刻なことにはならないだろうと思ってしまいました。僕自身は、怒りに任せて人を殴ることなんて絶対にしないので、他の人もそうだろうと勝手に決めつけていたのです。
でも、目の前の男が僕と同じ考えである保証はどこにもありませんでした。そもそも、まともな人なら自転車に対して接触するほど車を寄せたりこんなトラブルを起こしません。
男は僕の胸ぐらを掴んで激しく揺さぶると、壁際に押し付けるようにして脅し文句を叫び続けました。
なぜこの男がこんなに怒っているのかすら僕にはわかりませんでした。後から警察に聞いた話では、はじめは驚かせるだけのつもりだったのが、気持ちが抑えられなくなったと言っていました。つまり、特に理由もなくむしゃくしゃして僕を襲ったというのです。
しばらくもみ合っていると目の端に人が見えたので「警察を呼んでください!」と助けを求めました。工場から2~3人の男性がこちらを見ていたのを覚えています。
パトカーが来るまでの間、誰かが助けに入ってくれることはありませんでした。好んでトラブルに関わろうとする人はいません。警察を呼んでくれただけでも良かったのでしょう。
パトカーが到着すると、男と僕は警察署に連れて行かれました。
事情徴収を受けたのですが、男はすぐに罪を認めたようでした。
そこで男を訴えるか否かを聞かれました。もし訴えれば裁判になります。訴えない場合でも、男には前科が付くと言われました。
また、驚いたことに男の運転していた車には妻とこどもが乗っていたそうです。
はじめは訴えるつもりでいましたが、思いとどまりました。ものすごく甘い考えだったかもしれませんが、家族の気持ちを考えるといたたまれなくなったのです。
怪我などもしていませんでしたし、時間が経って気持ちも落ち着いてきていました。
男が謝罪したいと言っていると警察から聞きましたが、顔も見たくなかったので断りました。
帰宅してから気づいたのですが、胸ぐらを掴まれた際にシャツが裂けていました。自分では冷静でいたつもりでしたが、そんなことも気づかないくらい動転していたようです。
思い返してみると、たまたまその程度の被害で済んだだけで、男がもっと危険な人間であれば重大な事件になっていた可能性もあります。正常性バイアスが働き、事の大きさを正確に測れていませんでした。
また、自分の判断で病院に行きませんでしたが、これは失敗でした。気づいていないだけでどこか怪我をしていたかもしれません。裁判をしないとしても、診察代とシャツの弁償くらいはさせることが出来たはずです。
正常性バイアス(せいじょうせいバイアス、英: Normalcy bias)とは、認知バイアスの一種。社会心理学、災害心理学などで使用されている心理学用語で[1]、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという認知の特性のこと。
正常性バイアス- Wikipedia 2024年1月31日18:52
電車のトラブル
過去に暴行被害を受けていた経験もあり、自分の中では何かあっても次はもっと上手く対処が出来ると思っていました。でも、これは間違いでした。
学校を卒業した後に、僕は就職のために上京しました。通勤ラッシュで押しつぶされながら電車に乗る毎日です。
ある日、いつものように電車に乗っていると、前にいた男から急に掴みかかられました。スーツを着た40歳前後のサラリーマンです。わけがわからないまま、電車が駅に到着すると引きずり降ろされます。
真相は不確かなのですが、満員電車の中で人が降りる際に体が押し付けられたのが癇に障ったようです。もちろん不可抗力ですし、そもそもすし詰め状態なので本当にそれが僕がしたことなのかすらわかりません。
「ぶっ殺すぞ!」と男は叫んでいました。
こういう体験は2度目だったので、冷静になれるかと思っていましたが難しいです。男を突き飛ばして逃げても良いのか?周囲の目がある中で、そんな事をしたら変な嫌疑をかけられやしないか、と色々な考えが頭を巡って動くことができませんでした。
掴みかかってくる相手に対して、僕は両手を広げて無抵抗をアピールしました。これが良い判断だったのかはわかりません。
「駅員さんを呼んでください!」僕は周りの人に助けを求めます。
何百人という人がこちらを見ながらも、誰も助けてはくれません。通勤の忙しい時間帯ですし、あえてトラブルに首を突っ込む人はいません。周囲を見回しても駅員は見つからず僕は途方に暮れました。
男は、僕を人目のない階段下の暗い方に引っ張って行こうとしました。それは危険だと察知し、出来るだけ人の多いところに踏ん張ります。でも、やはり周囲の人は誰も仲裁に入ろうとはしません。
しばらくそうしていると、駅員が5~6人やってきました。
「警察を呼んでください!」
僕は前の経験を活かしてすぐに駅員に頼みました。
男は少し冷静になったのか、これはまずいぞという顔をしています。そして、とんでもないことを言い始めました。
「こいつ(僕)は痴漢だ!痴漢を捕まえたぞ!」
男は駅員に対して明らかな嘘を吐きます。もちろん、痴漢被害を訴える女性はそこにはいません。僕が両手を広げて無抵抗をアピールしているのに対して、男は肩を組んで首を締める格好になっています。
「警察を呼んでください!」僕は何度も駅員に頼みました。
でも、駅員は両者に対して「落ち着いて」と言うばかりで通報する素振りを見せません。駅員がやってきたことで、男はやっと僕から手を離しました。
「僕は痴漢なんてしていない。暴行を受けた。警察を呼んでください!」
前にいた駅員に対して、繰り返し懇願しましたが、駅員は何もしてくれません。駅員と目がまったく合わなかったのは、偶然だったのでしょうか。
そうこうしているうちに、駅に電車が入ってきました。駅員は、僕たちを群衆から遠ざけようとしますが、一瞬の隙をついて、なんと男は電車に飛び乗ってしまいました。
「そいつを捕まえて!警察を呼んで!」
僕は叫びましたが、それもむなしく扉は閉まり、電車はその男を乗せて行ってしまいました。
何が起こったのか僕には理解が出来ず、その場に立ち尽くしていました。呆然としていたのは10秒くらいだったと思います。気がつくと、周りには誰もいませんでした。何事も無かったかのように、駅員もすぐに立ち去ってしまったのです。
僕は、我に返って、ポケットからスマホを取り出すと警察に通報しました。
警察署に行くと、僕は事情徴収を受けました。同じ内容を5,6回は繰り返したと思います。僕は前回の暴行被害を思い出して、病院に行くことにしました。長くなりそうだったので、会社は休みました。
病院で検査をしてもらうと、特に異常は無いと言われました。そして診察代として5000円ほど取られます。近くの大きな病院だったのですが、紹介状が無い状態で診察を受けたので高くなったのでしょう。賠償請求するためにも領収証はしっかり受け取りました。
病院が終わると、また警察署に戻ってきました。
僕が診察を受けている間に捜査がすすんでいたようです。駅のカメラに僕と男がもみあっている姿が写っていた。ただ、映像が不鮮明でよく分からない、捜査は続けるが、相手が不明なので捕まえられるかは分からない、と言われました。
その説明を聞いて、このまま有耶無耶にされてしまうんじゃないかと直感しました。これからどうなるのかもっと詳しく聞きたいと頼みましたが、それ以上は相手しようとしてくれません。
しばらく粘っていると警察は、我々も忙しいんだ、巷ではもっと凶悪な事件が起こっていて手が回らない、というような事を愚痴りはじめました。そして、露骨に面倒くさそうな態度で「進展があればこちらから連絡を入れるのでもう帰りなさい」と突き放されました。
それから、もう何年も経ちますが、犯人が捕まったという電話はありません。
自分の身は自分で守るしか無い
いくつかトラブルに巻き込まれた経験から理解したのは、自分の身は自分で守るしかないという事です。
周囲に沢山の人がいても、誰も助けてはくれません。警察に通報してくれるかもわかりません。万が一トラブルになったら、誰かに頼むのではなく自分自身で警察に110番しなければいけません。
駅で絡まれた際、通行人はダメでも駅員なら何かしてくれると期待してしまいましたが誤りでした。制服を着ているので勘違いしがちですが、駅員も一般人なので逮捕権はありません。日本には私人逮捕という権利はありますが、リスクを負ってまで他人のために仲裁する人はいないのです。
駅員にとっては電車がスムーズに動かすことが第一使命なので、客同士のトラブルが済んでしまえば、犯人逮捕にこだわる必要はないのです。
僕の場合は暴行被害でしたが、ひったくりや女性の痴漢被害などでも同じことが起こりうると思います。眼の前で明らかな犯行があったとしても誰も助けてはくれず、被害を受けてしまえば泣き寝入りになってしまいます。
警察に通報しても、必ずしも犯人を逮捕してくれるとは限りません。20歳のころに受けた暴行被害では、パトカーが到着した際に犯人を捕らえられたこと、そして相手が罪を認めていたので話がスムーズにすすみました。
でも、犯人を取り逃がしてしまえば、捜査は困難になります。もしかしたら警察が全力をあげて捜査すれば捕まるかもしれません。でも、警察がそうしてくれる保証は無いのです。小さな事件であれば、真剣に探してくれないのです。
僕は病院に行って無傷でしたが、5000円の診察代がかかりました。会社も休んだので給料分も損したことになります(有給にはしましたが)。被害額でいえば2万円相当になるでしょう。半日分の時間も潰れ、嫌な思いもします。
でも、この程度の被害では警察は動いてくれません。
結局のところ、被害を受けてしまった時点で大きなマイナスでしかないのです。
この世の中には、自分とはまったく違う人間が沢山います。カッとなると後先考えずに、無差別に他人を襲う人がいるのです。法律や警察がいるから、そんなことをするはずがない、という考えは間違いです。
まずは、トラブルにならないことが一番大切です。危険を察知したらすぐにその場から離れなければなりません。
電車で絡まれた際に、僕は両手を広げて無実のアピールをしましたが、そんな事をしても何の約にも立ちませんでした。なりふり構わず、相手を押しのけて全力で走り去るのが正解だったでしょう。周りの目を気にしてはいけません。誰も助けてくれはしないのです。
もしも自分が被害にあったらどう行動すべきか、事前にシミュレーションしておくことは非常に重要だと思います。
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